やまない踏切

もう数十年前の夏の日の話です。

あれはたしか小学校の一学期の終業式で、三年生か四年生だったと記憶しています。
今、小学校は前期と後期というところも多いと思いますが、
私の頃は夏休み前が一学期、夏休み明けから冬休みまでが二学期で、冬休みから春休みまでが三学期でした。

なので、一学期の通知表を貰って家に帰ってきました。
帰ってきたのが午前中だったので、昼食を家で食べていた時のことでした。
当時私の家は道路沿いで、踏切からも20mくらいと、比較的近かったのです。
その、踏切の音も「カンカンカンカン」と普通に聞こえるところでした。

「なんか、へんねえ」

そう、言ったのは母でした。踏切の音が異様に長いのです。
2,3分の話ではありません。おそらく10分以上なっていたと思います。

私と母は踏切を見に行きました。すでに人だかりができていました。
電車は2台、というかすれ違いざまに急停車した感じでいた。

「おかしいね」

僕は踏切の周りをウロチョロしていました。その辺に友達いないかなと。

鳴りやまない踏切から離れ、止まっている電車の先端あたりまで来ました。
ふとそこに見慣れないシート(ブルーシートのような感じ)が不自然に置いてありました。
何かを覆っているような、かぶせてせているような感じでした。
しかし、置かれていたのは、柵の向こう側。しかし、長い棒を使えば、ひらりと中身が少し見えるかもしれません。
私はその辺にあった枝か何かを掴んで、その柵の隙間から手を伸ばし、シートの先端をめくりました。

めくったことは覚えています。おそらくそこにあった中身も見たはずです。
しかし、全く覚えていない……。

その後、母と合流して帰ったのですが、その日の夕方に近所で集まりがました。
そこで、お昼に踏切で起こったことが分かったのです。

飛び込み自殺でした。まだ青年だったそうで、成績を苦にした自殺、と誰かが言ったのを覚えています。
即死だったと言っていたのですが、それは電車に飛び込んだあと、跳ね飛ばされて落ちた際に
反対側からきた電車に轢かれたとのことで、酷い状態だったとのことです。

後から聞いたのですが、踏切そばの友達の家の庭に、腕か足が飛んできていたとのことでした。

話が進むたび、私は恐ろしくなってきました。どうやら私がみたシートの下が死体の回収場所だったようでした。

そして、私はそこを覗いた……。

このことを思い出すたび……。

このことを稀に思い出すのですが、あのシートの中を思い出すことはできません。こうだったのかもという感じはあるのですが、
それはその後の人生で見た、映画で出てきたグロテスクな死体のような気がします。

おそらく、「見てはいけないもの」と脳が判断し、記憶を消したのだと思っています。

ただ、今現在、こうまとめて書いていると、こう思います。
あんな所に、無造作に死体を置いておくか、普通。
もう少し厳重にしておくだろう、きっと。

そう思うのですね。そう思うと安心します。

ただ、当時はそういう配慮も薄い時代……。

出来るならば、思い出したくない、思い出です。

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