高飛車な患者の気持ち

昔、数十年以上前の話だが、私が入院していた時のことだ。

7人部屋の片隅にいたのだけど、わたし以外は重症患者ばかりだった。その部屋のそのベッドしか空いていなかったから仕方なかったのだけど、正直驚いていた。

印象深いことは多々あったのだけど、ふと、とある患者の事を思い出した。

その患者さんは喉あたりのがんのようだった。よって一切話せない。そして、数時間おきに喉から何かを抽出しないといけないようだった。

ある時だ。そのベッドあたりからガシャンという激しい音がした。
私は驚いて、カーテンからそのベッドあたりを覗いた。何かがこぼれていた。その近くに看護師さんがいた。
その看護師さんが消えた後、しばらくたって、二人ほど違う看護師さんが来た。
そして、ひたすら謝っていた。
「まだ、新人なんで、ちょっと慣れていないところもあって、ごめんなさい」
という旨だった。
「許してやってください」
「ごめんなさい」
そう言った言葉が続いた。
「そうですか。申し訳ございません。では、もうこの看護師は来させないようにするので許していただけますか?」

そう言って、二人は去って行った。
患者さんの声は聞こえない。おそらく書いていたのかもしれない。

その時だけでなく、「ごめんない」とか「そういう事は思っていません」とか「そんな、馬鹿になんかしてません」などというネガティブな言葉満載な日々が続いた。

私は二週間くらいたって別の病棟に移ったので、どうなったかはわからない。

当時の私はそれを聞くたび「わがままだなあ、看護師さんのおかげで生きているのに。よくそこまで文句言えるよなあ……」って思っていた。

確かに、今でもそう思う。ただ、その患者さん自身、どうしようもなかったのかな、と思う。
例えば、とても地位の高い方で、仕事もバリバリしていて、尊敬されていた(と自分が思っている)という人が、突然ベッドから動けなくなり、他者の力がないと生きていられないくらいの状態になってしまうという現実。

それは受け入れられないよね。

しかし看護師さんて、当時も今もすごいなって思うよ。
おそらく、その気持ちが分かっていたんだろうね、きっと。

わたしはようやく歳を重ねて気が付いたのに。

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