昔、塾の講師をしていた。
中―から高三と幅広くしていた時の話。
中三の一番学力の低いクラスを受け持っていた時の事。
塾なので担任という感じではなく、私の都合のよかった時間帯が、丁度そのクラスを受け持つことが多かっただけ。
まあ、学校で程よく勉強のできない子が、せめて少しでも上がれば……、という感じの集まりで、真面目に聞いているのははじめの方でわからなくなると騒ぎ出す子もいた感じ。
ただ、塾なので迷惑かけすぎたりする子や、あまりにも勉強しない子はやめていった。
長くやっていると、コツみたいなものを掴んできて、私は割と仲良くなっていた。
まあ、分からなきゃわからないで仕方ないし、分かってくれるとこちらも嬉しい。
そんな感じだった。
その中にいつもつるんでいる2人組の女の子がいた。
小さい方をA子、大きい方をO美としよう。
この二人は抜きんでてファッションに興味があり、よく学校通えるなあ、てな派手な服装をよくしていた。まあ、制服の下に派手なシャツを着ていたり、髪の毛ワンポイント黒ではなかったりしていたくらいだが。
二人は後ろの席に座り、大概の問題において「わかんねえよ」と大声を上げていた。
時折私は分かり易いように教え直していた。そのうち分かるようになってきたり諦めたりと様々だったがそれなりに面白い子たちだった。
しかし、数か月くらいたつと、なんとなくその2人に違和感を感じ始めた。
どうやらA子はわかっているっぽいのだ。
教えていることを、理解している。学校のテストの点数はわからないし、問題集を解かせても空欄だったりする。しかし、所々で問題を理解し、解けているという感じがあった。
冬になり、志望校が決まってくる。そのクラスの子たちは高校は進学するが、やはり偏差値は高くないところだった。そしてA子もその類だった。
もったいないな、って思っていた。だって、しっかりやれば一つ上、いや、もう一つ上くらいのクラスになれるのに。
年明けてからだと思う。相棒のO美がいない時だった。
周りに人がいない事を確認してA子に聞いた。
「もっと、上に行けるのに、もったいないよ、A子は」
私がそういうと、A子はうつむいたまま、何も言わなかった。
その、寂し気な表情は、数十年たった今でも思い出せる。
私が絵がうまかったら、はっきりと誰だかわかるくらい描けるほどに。
それから、そのことは聞けなかった。
ただ、高校はO美とは違う、やや偏差値高めの高校に進学したと記憶している。
おそらくA子は、友達を間違ったのではないのかな、と思っている。
ファッションメインで友達を選んだのだと思う。
そこでは正解だったと思うが、それ以外は合わなかったのではないだろうか?
O美と合わす為、少々抜けた振りをしていたのではないのだろうか?
時々思い出す、彼女の寂し気な表情。
高校で、いい友達にめぐりあえたのかなあ。
なんせ、数十年前の話だ。もう、何も残ってない。
ただ、記憶だけ。そして、ただ心配な気分。
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