私が前の会社にいた時だからもう15年くらい前の話になる。
当時私は40歳手前で、いろいろと仕切っていたころだった。
会社全体が忙しく人手不足だった。そこで当時はやっていた派遣会社から一人、営業兼エンジニアを雇った(会社がね。私は権限はない)。
取引のある会社の施設で、弊社の製品を実際に動かす(使ってもらう)ためのレクチャーをしてもらう役割だった。まあ、実際にはそこに在る機械に弊社製品をはめ込んで使い方を説明するような感じ。取り扱い説明書の人間版で、人と普通に接することが出来れば、だれでもできる仕事だった。
じゃあ、お前やれよ、という事だが、それなりにあちこちの会社に行ったりして、正直それが大変なのね。当時私は会社から二時間くらいのところに住んでのもあって。
早速その派遣の人と会ってみると、そこにはおじさんがいた。がりがりのメガネの髪の毛が薄く白髪だった。
だれでも「大丈夫かな?」と思うような人だった。
製品の使い方を教え始めたんだけど、案の定ダメだった。ゆっくり何回も伝えるのだけど、彼がノートを取るときは書ききるまで待って、続きをはじめたりしたのだけど、どうやってもダメだった。
「では、混乱しているようですので、一旦ノートをまとめてみてください」
「あの、この文字はなんて書いてあるのでしょうか?」
そういって、自分の書いた文字を私に聞いたりすることも多々あった。
一ヶ月、毎日教えても、結局自分一人で出来なかった。というより、やらなかった。
「では、これを機械に順番に並べて、パラメータを登録して、スタートしてみてください」
「いやいや、私には恐れ多くて、スタートボタンは押せません」
結局、御用聞きになって、他社さんを回るだけの仕事になったのだけど、それもできずクレームが入ったりした。
最後は電話番になって、ずっと会社に居たようだ。その時は他の部署に行ったので私はわからない。
結局、一年くらいでいなくなったようだ。
彼とはじめたばかりのころ、仲良くなろうと思ってプライベートのことを聞いたりしたわけですよ。その方、御年52歳ということで、「ここに来たからには心機一転、真面目に取り組んで、気に入っていただき、できれば雇っていただけたらと思ってます」と言っていた。
しばらくして、彼が参加した会議でも「まだ教えてもらってません」「もう少しお時間頂けたらできます」という感じで、本当に嫌になった。
飲み会でも上司に「飲んでるか?」と聞かれ「飲んでます。もう酔っぱらってます!」と言いながら、店員にこっそり頼んだウーロン茶を飲んでいたりした。
結果的に、彼は嘘つきで卑怯者だったんですよね。そうやって、のらりくらりと、半年から一年くらい持てばいいような、派遣だから、辞めれば次に行けばいいやくらいで、でも仕事はしたくないので、逃げるだけ逃げるような、生き方……。
当時私は彼を思いきり軽蔑してたんですよね。
でも、というかあの時の彼の年齢を超えた今、私が思うことは、彼は彼の範囲内で「生きていく」選択をしただけなのかな、と。
自分の範囲外の能力は「使いたくない」し、それまでもその場しのぎで言葉巧みに上長を丸め込めば、そこには居れるわけだし。俺が、こんな会社に「本気を出す」必要はないから。
50を超えると、なんとなくそういう風に、自分の範囲内で過ごそうとなってしまっている自分を否定できない。
それが、非常に怖く感じる。
しかし、このまま放っておくと、腐ってしまうのだろうね、彼のように。
コメント